高齢独身女子の生態(後編)

ところで前編の最初に書いたように、私はまだ自分が20代の時は、厄年過ぎた独身女性の生態というのが全く分からなくて、一体彼女達には人生の楽しみや希望というものがあるだろうかと、半ば本気で思っていた。


あまりにも視野が狭すぎたと言えるが、年上の同性の友達が皆無だったことや、職場などにも適当なロールモデルがおらず、また故郷の従兄弟や親戚などは誰も彼も年なりの生活を送っており(つまり適齢期を過ぎたら結婚して子供がいて・・・という人生)、私のように異常値な人生を送った女性の見本が無かったので、ある意味仕方ない面もあったと思う。


その頃から愛読しているのが「感情廃棄物集積所」という老舗ブログで、当時はもちろんブログではなく「ホームページ」もしくは「日記」であったが、ともかく(当時)30代前半の、みやのさんという、一見ごく普通の独身一人暮らしOL(もちろん中の人の中身は全然「普通」なんかじゃないんだけど)の細かな日常が綴られており、私は新鮮な驚きをもって彼女の日記を読み続けていた。


当時の彼女のプロフィールは、「若い時は芸能事務所で事務をしてて、渋谷系の音楽を聴いたりクラブ遊びをしたりなんぞしつつ、その後仕事をやめてインドを旅行したりして、それから派遣社員を経て今は中小企業の経理社員として働いていている三茶で一人暮らしのOL」って感じで、自分との共通点なんて音楽の趣味と派遣社員ってことくらいだったのだけど、全体的な「臭気」(笑)に他人でないものを感じていた。
自分がなるとしたら確実にこのセグメントで生きていくであろうという30代独身女性の見本だと思った。


彼女の日記の最大の魅力は、平凡の皮を被りながら、中にはものすごく地頭が良くて教養としなやかな強さがある女性が隠れていることだ。
当時(から?)一部で盛り上がっていた山形浩生やその周辺の人たちとも交流を持っていた様子で、確か私が彼女の日記を読むきっかけになったのもその辺りのリンクからだったと思う。


30代前半のみやのさんは、お見合いをしてみたり、酔っ払ってみたり、フジロックに参加してみたり、洋楽カラオケでスミスを熱唱してみたり、友達と長電話してみたり、ちょっと恋愛もしてみたり、長時間散歩してみたり、職場旅行に参加してみたり、職場では「フツーのOL」としてキッチリ仕事してるのに職場の体質からかまともな評価がなかなか追いつかなくてイライラしてみたり、あれやこれやの日常の中で感じたり考えたりしたことを細かに綴られており、「こんな風に飄々と、ちゃんと悩んだりイライラしたり落ち込んだりしつつも、おおむね笑って楽しく自由に生きてる30代の女性がいる」というのは、私にとってどれほど力強い見本となったことだろうか。*1


今や40代独身女子になられたみやのさんは、すっかりプロ野球に夢中で、ご本人も以前日記に書いていらっしゃったけど、年をとってもそんな風に打ち込めるものを見つけて楽しく生きられるのだなぁというまた新たなモデルを提示してくださっている。


私のこのブログは彼女の日記の数十分の一程度の魅力しかないけど、最近たまに自分よりも年下の、現代の適齢期(つまり29〜32歳くらい)の女性からコメントをもらったりする機会もあって、きっと彼女達は自分達と同じように焦ったり悩んだりして七転八倒した果てに「未婚」という結果を辿っている女性が、結果として30代後半をどう感じて生きてるのかを知りたいのではないかと思ったりしている。


私も同じような感じで、40代で未婚女性のブログを探してみたりするのだけど、なかなかそれほど魅力あるブログに出会える機会が少ない。
なんと言ってもバブル世代、雇用機会均等法ごく初期の彼女たちの人生で「未婚」という選択肢は今より相当にハードルが高かったと思われる。


人生は10人いれば十通りの生き方や感じ方があって、誰かの人生がそのまま自分に当てはまる訳ではないけど、仲間が沢山いるというのは心強いし、それが勝ち犬(ってもはや懐かしワードかしら)から「同類相憐れむ」と思われるとしても、私達はもしかしたら一生このままかもしれないのだから、協同して生きていくのが正しいと思う。


そういう意味では将来的には「おひとりさま党」みたいなのが出来て国会で頑張ってもらって、是非おひとりさま減税や、おひとりさま年金制度、おひとりさま社会保障制度など、インフラの整備に努めていただけると、「一回や二回、結婚に失敗してもおひとりさまでやり直せばいいや」と却って結婚のハードルが下がって、結果的には少子化対策にもなるんではないかと思ったり思わなかったりする。
ここはひとつ、上野千鶴子小倉千加子か、いやむしろ知名度的に遥洋子に頑張って頂き、政局の混乱に乗じてひとつ政党など立ち上げていただければ。


・・・なんかグダグダな終わり方ですが、そろそろ出社時間が迫っているのでとりあえず今日のところはこの辺で。

*1:ちなみに私は一度だけ、山形浩生の出版記念講演会の場で彼女をお見かけする機会があったのだけど、実は美人で飾らないオトナの女性という感じで、日記から想像した雰囲気そのままの人であった。