熟女の品格|岩井志麻子

今年最後の記事が、岩井志麻子って、2012年、厄落としみたいなものですね。


来年の手帳レフィルを買いに行く前に、今年の手帳をパラパラめくって見てました。
本当に今年はろくな一年じゃなかった。
思えば願ったことがひとつも叶わなかった。
年初に抱えていた問題は、結局解決を見ず、来年へ持越しとなった。


ふと考える。
これはいったいどういうことか。
この一年、私は何をしてたのだろうか。
全て霧の中ののようにぼんやりとしか思い出せない。
ただひたすら、つらく、苦しく、居心地が悪かった。
どこからか神様が現れて、奇跡を起こしてくれるのを待ってるだけだった。
思えば、年々、欲望の度合いが低くなっているような気がする。
四六時中頭から離れないほど、恋い焦がれるものが無くなってきた。
欲しいものに対する情熱が薄いのだから、願いが叶わないのも当然である。
自分が何を欲しいのか、さっぱりわからなくなっている。
「欲しいものが欲しい・・・」
今年一番呟いたセリフかもしれない。
これだけは、喉から手が出るほど欲しい。


この本は冒頭が一番読ませる。

さらに、とてもその歳には見えないきれいな熟女を「美魔女」などとオシャレな女性誌までが特集し、本当に若々しい同世代や、もっと上とは信じられない美女が芸能界だけでなく身近にもあふれるようになりました。
彼女らを羨望し、ああなりたいわと願い、ときにケッと嫉妬もしました。けれど「しんどいなぁ。しんどかろうなぁ」と嘆息したのも事実です。
「女はいつまでも若々しく」「自分をオバサンと思ったら終わり」「若い女にも負けず、若い女に憧れられる女にならなきゃ」といった、一見するとオバサンを立て、アゲてくれそうなスローガンの数々。
これらはオバサンを解放してくれ、救ってくれるようでいて、逆に昔の「オバサンはすっこんでろ」「あとはバアサンになるだけ」よりも、いっそうオバサンを追いつめる勢力となってはいませんか。
(中略)
なんで、オバサンがオバサンであってはいけないのでしょう。どうしてオバサンが若い女のふりをしなきゃならないのでしょう。なぜに、熟れた果実が青臭い偽装をしなきゃ許されないと感じてしまうのでしょう。


そうだよねぇと思う。
私も常々、「STORY」をめくるたびに、そのギラギラした負けん気に胸やけを覚えていた。
液晶の向こうから、何の華も無くなった鈴木保奈美が「ちゃんと年下のヒトから憧れられてる?」と問いかけるCMにうんざりする。
ここで言う「年下のヒト」とは間違いなく「年下の女性」である。
でも若い子に聞いてみたい。
昔ドラマで有名だったらしい(「あぁ、お母さんに聞いたことがあります」)、「とんねるずの嫁」に、憧れる?
若作りして、皺を伸ばして、パートでドラマに出演する女に「憧れる」のは、「年下」じゃなくて「同世代」だ。間違いなく。


私がまだ若かった頃、「年をとったらこんな風になりたい」と憧れた女性は「キャサリン・ヘップバーン」だった。
(当時、オサレな雑誌でオサレピープルが必ずあげる本がキャサリン・ヘップバーンの写真集だった。)
他にも「向田邦子」や「白洲正子」、「ジャンヌ・モロー」や「ジェーン・バーキン」、今時なら「島田順子」も入るかもしれない。


彼女たちに共通しているのは、いかに年をとらないように努力するか(引き算)、ではなく、良い年を重ねて魅力を増している(足し算)、いるという点だ。
そこにあるのは美しさだけではない。


知性。
個性。
意志。


女が憧れる年上の女性って、そういうものではないか?
だって、「いかに若く見えるか」が価値の基準であるなら、自分より「年寄り」はすべからく自分より劣る、ということになるのだから。
いくら若く見えようともそれはフェイクであり、整形美人がオリジナル美人にはどうやったって勝てないのと同じで、ホンモノの若さに勝てる若作りなどありえない。
だから、シャンプーのCMで「年下のヒトに憧れられてる?」なんて、ちゃんちゃらおかしい話なのである。


もちろん男の視点など知らん。
私は男ではないから、遺伝子学的には男は生殖能力が低い女には欲情しないようになっていると言われれば、そうですか、女も繁殖能力の低い男(=経済力のない男)には欲情しないのだから仕方ないですね、としか言いようがない。
感性に劣る男には女のフェイクを見抜けないのかもしれない。
だとすれば、若作りしたオバサンもホンモノの若い女に勝ち目があるかもしれない。
だけどそれは「憧れる」とは違うだろう。
ちゃんと「やりたいと思われてる?」と聞くべきだ。(やばい、志麻子の影響でついつい下品に・・・)


そして冒頭の話に戻る。


目標がひとつも達成できてないと嘆く私は、結局、間違った目標設定をしている、ということなのかもしれない。
若作りをして、「なんで28歳に見られないのかしら?」と首をひねってるようなものなのかもしれない。
なれもしないものに憧れたり、こうあるべきという思い込みに縛られて本当に望むものでないものを望んでいたり。
そんなことをして、浪費している時間なんて本当に無いのに!


以前どこかで岩井志麻子中村うさぎと「HKB48」(ヘイケイビー48)と名乗ってて大笑いしたけど、私もあと10年もすれば閉経だ。
そのことを日々強く意識するようになっている。
それまでに少しずつ、正しい年のとりかたを覚えていかなければいけないと思う。
そのことにきちんと向き合っていないと、やがてくる更年期が相当苦しいものになるだろうことが容易に想像できる。


自分がなりたかった大人の女性は、知性があって、自分で自分を幸せにできる、強い女性だった。
岩井志麻子も頭の良い、自分を知っている、とても強い女性だと思う。
・・・憧れはしないけど。

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