こんなん読みました

二つのIDを管理するのが面倒くさくなってきたので、実家に戻って参りました。
これも一時の気まぐれかもしれませんが。
年末のこの時期はいつも心がざわざわして、衝動的な行動に出てしまうものです。

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最近、読んだものを端から端から忘れていくので、困ったものです。
ということで備忘録。

生きぞこない …… エリートビジネスマンの「どん底」からの脱出記

生きぞこない …… エリートビジネスマンの「どん底」からの脱出記

生きぞこない …… エリートビジネスマンの「どん底」からの脱出記 | 北嶋一郎


まずタイトルが「誇大広告」です。
「エリート」じゃないし。
あと、別に「脱出」もしてないし。
はっきり言って、内容は自費出版の自分史レベルです。
ただ、文章が上手です。
さすが長年ブログを書いてただけあって、読ませる。
しかも他人の不幸は蜜の味。
文字密度の低いスカスカな本なので、そのスピーディーな展開もあいまって、読者は2時間もあればあっという間にエンディングまで主人公と一緒に転がり落ちることができます。


結局、この本の主題は、このタイトルとは全然別のところにあって、双極 II 型障害というのがどれほどその人の社会的資産(金銭や評判)を損なう可能性のある危険な病気か、ということです。
まぁそうはいっても、多くの人はこれを読んで「単に浪費癖とDV癖のある男の物語じゃないのか?」と思うでしょうし、私もこういうタイプの躁うつ病は「擬態うつ病」とかと同じで、なかなか判断が難しいと思う部分もありますが。
たかだか年収2千万程度で、ポルシェを乗り回したり、和光を貸切って高給時計を大人買いしたり、恋人にマンションをあげたりするのは、まともな金銭感覚ではありえません。
バブルが崩壊して、世間が金融不況であえいでいる中、40代のおっさんが「いくらでも次の仕事は見つかる」と思っているのも、とても「エリート」ビジネスマンとは思えない感度です。 
逆に言えば、こういう人でも2千万円も稼ぐことができたくらい、ほんの数年前までの日本にはまだまだ余力があった、特に英語が話せるということにどれほどのアドバンテージがあったかということを思い知らされます。


もう一つ特徴的だと思ったのは、彼が世間とつながる方法がほとんどネット経由であったという点です。
自殺を未遂に終わらせてくれたのもブログつながりの人達だし、新しい恋人もTwitterで出会った相手、学生時代の友人と再会するのもFacebookです。
それが今の20代やそれより下の世代ならともかく、65年生まれのおっさんですからね。
IBMだから当然といえば当然なんですけど。時代的でなかなか面白いと思いました。



夢を叶える夢を見た (幻冬舎文庫)

夢を叶える夢を見た (幻冬舎文庫)

夢を叶える夢を見た | 内館牧子

少し前までのサラリーマンは、自分の所属する会社の知名度が自分自身のアイデンティティとなってたようなところがありますね。
前の本の北嶋さんも何度もそのことを強調してましたし、この内館牧子さんも全く同様です。
内館さんの中では、「三菱重工出身」というのはものすごく価値のある経歴なんでしょう。
そこらへんが、そうした価値観とは無縁に生きてきた人間には、とても共感を呼びづらいと思います。
これは受験勉強が青春だった人たちの間では偏差値5の重みが共有できるのに(東大と早慶とMARCHじゃ天と地ほども違うし、更にその中の大学やら学部やらでも全く意味が違ってくる)、高卒やさほど大学受験に重きを置いてなかった人たちにはその価値(出身者自身の主観的価値)が理解しにくいのと同じです。
ですから大企業のサラリーマンであればあるほど、それに対する主観的価値が大きくなりすぎて、余計にその場所を捨てて別のところに飛び出す勇気が持ち辛い、という面があるかもしれません。


しかしのご時世では、大きな会社に勤めている人じゃなくても、今ある安定を捨てて荒波に飛び込んでいくことはなかなか勇気がいることなのは確かでしょう。
こういうことはついついイチゼロで考えてしまいがちです。特に日本はやり直しのきかない社会だと言われていますからね。
リブセンスの可愛い社長BOYがインタビューで「失敗しても経験が残る(から起業はリスクではない)。」というようなことを語っていましたが 、そう考えられる人なら夢に向かって飛び出せるのだろうし、そういう風には思えない(失敗して蓄財を全て失ったらゼロになると考える)人はなかなか飛び出すことは難しいでしょう。


私がこの本の中で最も胸が締め付けられたのは、50歳の女性の語る「飛べばよかった」という後悔を語るパートでした。
その人は過去に転職のチャンスをみすみす逃し、今では会社の中で「おばさん」呼ばわりされています。
しかも「おばさん」呼ばわりして邪険にするのは男だけじゃなく、若い女も共犯なのです。
彼女はその陰口をたまたま耳にしてしまいます。
そして深く落ち込み、「あの時飛んでいれば・・・」と思うのです。


もっとも、若い時に勇気をもって新天地に飛び出していったとしても、それでも50歳の女性が「おばさん」呼ばわりされることはどこの会社に行っても変わらないようにも思います。
自分の周りを見ていても、そこまで露骨ではなくとも、女性は40代後半になると本当に辛い立場に置かれます。
男性社員からは透明人間か何かのように扱われ、少しでも面倒くさいことを言おうものなら「だからおばさんは面倒くさい」ともいわんばかりの邪険な態度をとられます。
確かに「おばさん」の話は長い。そしてくどい。
だけどお前ら、「女の子」の話はどんなに「くだらない」「要領を得ない」話でもやたら熱心にへらへらしながら耳を傾けてるんだろうが!と言いたい。


女は30を超えると、一年一年、年輪を刻むように、世間の(というか男の)世知辛さを身に染みて感じるようになります。
しかし40代、あるいは50代のそれは30代とは比較にならないほどキツイ、ツンドラ級に冷たいものなのだと私も覚悟しています。
彼女たちが理不尽に冷遇されて働き続けている姿を見ると、私はとても他人事とは思えず、哀しくなります。
そして毎日のように、どうにかして楽しく長いキャリアを続ける方法がないものかと、考え続けています。


僕は君たちに武器を配りたい

僕は君たちに武器を配りたい

僕は君たちに武器を配りたい | 瀧本哲史

本年のGrrrly的がっかりアワード受賞作。
マッキンゼーのコンサルで京大の先生ともあろうものがこんなしょうもない本書いてていいんか?
しかも、またそれが売れてるっつうのも何だかなぁ・・・。
本の中で瀧本さんはリベラル・アーツの大切さを訴えっているけど、この本からは彼の教養の欠片も感じられない。
だけどコンサルだけあって、プレゼンつくりだけは上手。
コモディティになってはいけない」とか「儲かる漁師の6タイプ」とか。
しかしいかんせん、内容が薄い。ぺらっぺら。


日経新聞を鵜呑みにするなとか。
個人投資家機関投資家の食い物にされるのがオチとか。
大企業に入ったからといって安泰なんてことはないんですよ、40年前の学生の就職したい企業ランキングを知ってますか!?とか。


・・・知ってるよ。


そんでもって、大企業だっていつ潰れるかわかりません!山一證券を見てみなさい!


・・・毎回毎回この手の話する人は間違いなく全員山一と長銀を例に出しますが、逆に言えば、山一や長銀くらいしかそういう例は無いってことですよ?


いや、もちろん大企業に入っても安泰でないことは認めます。
一介のサラリーマンなんて本当に歯車でしかないですからね。
でもどうしろっていうの?
全員が企業家になれるわけじゃないでしょう?
中小企業になんて入ったらもっと不安定なんです。
中小企業ならいろんな仕事の経験をさせてもらえてうんぬん言う人いますけど、大抵の中小企業はその企業なりの規模の仕事しかさせてもらえません。
しかも残念なことに、そうした企業は(特に景気が良かった時期は)なかなか優秀な人材を雇用することが難しいので、必然的にあなたの上司は無能な上司になります。
無能な上司の下で理不尽にこきつかわれることの苦しさを知ってて言ってんでしょうかね?こういう人たちは。


先に内館牧子さんの本を紹介した際に、私は彼女の大企業マンセーっぷりを叩きましたけど、実は一方で、彼女の言っていることに非常に共感する部分もあるのです。
それは「大企業には質の良い人材が集まっている」ということです。
会社というのは働くという経験をするところですけど、同時に社会でもあります。
社会の構成員の質が高い場所で一日の大半を過ごすことができるというのは、それだけストレスが少ないということです。
こういうことを書くと差別的だと感じる人が沢山いるのはわかっています。
でもそれは事実です。質という言い方が悪いかもしれませんね。要は頭の回転が良く、礼儀正しく、言われなくてもルールにきちんと従い、自らの職務を遂行する能力が高い人が沢山いるということです。
本の学校教育というのはそういう質の人間を養成する(しつける)トレーニングだし、そういうことに対して適性がある人間を喜んで雇うのが大企業なのです。


話がずれまくってますが・・・。
とにかく、学生に起業論などを教えてる人ならせめて、
「日本では何故投資家が嫌われるのか、それは士農工商身分制度の影響です。」
なんていうトンデモ推論を書いてる暇があったら、もう少しまともに研究してください。
そして次の本こそは1枚でも付箋が貼れる本を書いてくれることを期待してます。