東電OLと私
(思わせぶりなタイトルだが、言いたいことは非常にしょうもないと断っておく)
東電OL殺人事件。
ひとりの総合職OLが渋谷の繁華街の片隅で殺された、ただそれだけの事件なのだが、強く人々の好奇心を喚起した。
何しろワイドショー的ネタのてんこ盛りである。
昼の顔と夜の顔を持つ女。
一応おさらいしておくと、表の顔は永福育ちのお嬢様(一応)。
慶応卒で東京電力のキャリア女性。
しかしその裏の顔は、拒食症でやせ細ったからだで、夜な夜な渋谷の辻に立ち、だれかれ構わず声をかけ自分を売る。
必ずひとりは客をとらなければ決して家路に着こうとはしなかったとか。
更には奇行。
また、泰子には数々の奇行が見られた。コートの裾をたくし上げて路上で放尿。道に落ちているビール瓶を拾って酒屋で1本5円に換金。さらに、その小銭を集めて、百円玉に、百円玉がたまると千円札に、そして千円札がたまると一万円札に“逆両替”。ホテルで布団を大便や小便で汚して出入り禁止になっても性懲りもなく利用。帰りの終電の中で菓子パンをムシャムシャ・・・。
事件が起こったのは1997年。
当時、私はまだ20代だったが、彼女の持つ闇に強くひきつけられるものを感じ、この事件を興味深く追っていた。
その頃の私には39歳の女性が自分を売るという行為が、契約として成立すること自体が驚きだった。
39歳といえば自分の母を思えば完全なセックスレスであったことは間違いない。
一言で言えば「おばさん」。
そんな「おばさん」に金を出す男がいるのか?
(実際のところ、客はつかまりにくかったようだが。)
ことのほか性に関してはおぼこい(だが頭デッカチな)私には、それはなかなか理解し難い世界だった。
そして、気付くと私は彼女と同じ年頃になっていた。
今、私が渋谷で立ちんぼしたら、誰かが諭吉を差し出してくれるのだろうか?
絶対に無いとは言えないような気がするのだ。
いや、そう思わなければ、婚活だの、恋愛だの、どうして出来ようか?
それを確認したい、自分がまだ男性に(金を払ってでも)求められる性であることを確かめたい。
・・・と彼女が思っていたのかはよくわからない。
彼女が自分を売った理由はもっともっと別のところにあるように感じる。
金銭への執着。
自傷行為。
だが彼女の死が人の目をひきつけた理由は、おそらくそんなところにもあるのだと思う。
例えば東大生がAVに出たからといって今や珍しくもないだろう。
だが、女と無性の狭間のお年頃の女が執着するセックスには、もっともっとドロドロとした動物的な業を感じる。
今思えば、婦人公論の極北にこの事件があるような気がしてならない。